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第22話 仄暗い夜

Penulis: 青砥尭杜
last update Tanggal publikasi: 2025-02-14 21:16:20

 エルヴァの屋敷はカイトの想像をはるかに超えて広かった。

 カイトにあてがわれた部屋も二十畳ほどの寝室としては広いもので、白を基調とした明るい部屋には先ほど紳士服店で買った部屋着や下着などの荷物がすでに運び込まれていた。

 夕食までの自由な時間を得たカイトは、窓際に小振りなティーテーブルを挟むように置かれた椅子に腰掛けると「他にすることもないし」と気楽な動機で禁書を開いた。

 カイトにとって禁書に目を通す行為は、召喚魔法の知識を得るためというよりも娯楽小説をめくる感覚に近かった。

 窓から射し込む光が柔らかい暖色に変化したことで、日が落ちるんだと気付いたカイトは部屋に備え付けられたランプを灯した。

 蛍光灯やLEDといった電気照明以外に触れることがほとんど無かったカイトにとっては、新鮮でありながらも仄暗い夜が始まった。

 携帯式のランタンで足下を照らしながらカイトの部屋を訪れたメイドが夕食を報せるまで、カイトは目が慣れてしまえば文字を追うことにストレスのないランプの灯りを頼りに禁書を読み進めた。

 メイドの案内に従いカイトが食堂に入ると、十人が席についても余裕がありそうなテーブルの両端には四台の大きな燭台が置かれ、合わせると二十本のろうそくが灯っていた。

 随分とムードのある食卓だとカイトは思いながら席に着いた。

 カイトに少し遅れて食堂に入ったエルヴァは、目抜き通りでのショッピングを終えて屋敷へ戻った際に出迎えた三人のメイドとは別のメイドを連れていた。

 エルヴァは席に着くと、カイトにとっては初対面となるメイドの紹介を始めた。

「まずカイト君に紹介しておこう。きみに付いて身の回りの世話を担当するメイドのストーリア。今日からこの屋敷へ入ることになった新人君だ。きみと同い年の二十歳らしいから気兼ねもいらないんじゃないかな」

 エルヴァに紹介されたストーリアは、カイトに向かって深々と頭を下げてから自分の名前を口にした。

「ストーリア・カストリオタと申します。これより身の回りのことは何なりとお申し付けください」

 小柄なストーリアは白い肌を引き立てる赤褐色の髪をショートボブにしていた。

 ベルエポックとも呼ばれる華やかな時代背景を反映するように、この異世界に来てからカイトが目にした女性はヘアメイクが際立つ長い髪の女性がほとんどだった。

 顎のラインに沿うようなショートボブのストーリアを見て、外見から受ける時代の違いをあまり感じないと思ったカイトは、初対面のストーリアに対して微かな親近感を抱いた。

 切れ長の目が理知的な印象を与えるストーリアに微笑みを向けられて、ドキッとする自分に気付いたカイトは異世界に来てからの相手が女王でも世界最強の存在であっても落ち着いて対応できてしまっている「らしくない自分」の反応ではないことを嬉しいと感じた。

 夕餉はランチよりも豪勢なフルコースだった。

 旺盛な食欲をみせて次々に平らげるカイトの様子を肴とするように、エルヴァはチーズだけを軽くつまみながらワインのフルボトルを二本ほど空けた。

 食事を終えて自室としてあてがわれた部屋へ戻るカイトを、ストーリアが携帯式のランタンを持って先導した。

 カイトの自室の前に着くとストーリアが立ち止まったので、カイトも立ち止まってストーリアに声をかけた。

「俺はもう寝ますので、今日はもう結構ですよ」

「そうはまいりません。まず、お着替えがございます」

 ストーリアの口から「お着替え」と聞いて驚いたカイトは、慌てて断る理由を探した。

「あー……えーと、着替えは一人でやるわけにはいきませんか、俺は身の回りを女性に世話してもらった経験が無いので、その……着替えの度に緊張してしまって疲れてしまうかと……慣れそうにもありませんし……」

「……閣下がそう仰るのでしたら……かしこまりました。お着替えの介添えは控えさせていただきます」

 ストーリアの返答にホッとしたカイトは素直にお礼を口にした。

「ありがとうございます。助かります」

「閣下、わたくしに対しての敬語は不要でございます」

「ああ……うん。分かった。それじゃあ、俺にも敬語は不要ってことでっ……て、そうはいかないのかな」

「はい。まいりません。お心だけ、ありがたく頂戴いたします」

 メイドとしての立場を考えればストーリアの対応が合っているとカイトは思った。

「うん……そうだよね。じゃあ、おやすみ」

「閣下」

 部屋に入ろうとしたカイトを呼び止めるように声をかけたストーリアは、

「夜伽のご用命はございませんか?」

 と業務を確認する口調で尋ねた。

「よとぎ?」

 カイトは言葉の意味を一瞬では理解できなかった。

 脳内辞書の検索が済んで答えたカイトは、

「ああ、夜伽ね……って、えっ!?」

 と言葉の途中で声を裏返させた。

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